オランダあれやこれや

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世紀の贋作者とヴィトンとフェイクニュース
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<世紀の贋作者>

今回コラムを書かせていただく水原リキです。
オランダの生んだ世紀の贋作者「ハン・ファン・メーヘレン」を知っていますか?
19世紀の終わり1889年、そう、ゴッホが南フランスで精神を病んで亡くなるちょうど1年前にこの世に生を受けます。デルフト工科大学で建築を学んでいたのですが、生まれつき絵の才能があって美術展などで入賞します。ただ、20世紀の始めはキュービズムやらダダイズムといった「新しい美術」が美術界を席巻していたためファン・メーヘレンの写実的な絵は「古臭い」の一言で無視されしまうのです。

絵画の技術は相当なものだったので、ファン・メーヘレンは名作といわれる絵画の贋作を作り糊口をしのぐようになります。最初は単なる「写し」だったのですが、そのうちに、有名作家の「まだ発見されていない」作品を自分の想像で描くようになります。
まずファン・メーヘレンはフェルメールの作風を模写して研究を始めます。その上で題材はフェルメールが手がけていないとされていた宗教画を描くことに決めます。そうして「フェルメール作、マハオの食卓」というキリストが絵の中心にいる作品を作り上げ、これをまんまと莫大な値段でロッテルダムのボーイマンス・ファン・ブーニンゲン美術館に売ることに成功します。

この作品は今でも展示されていますが、どこから見てもフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」や「ミルクを注ぐ女」とは全く似たところがありません。
でも、当時の専門家が「存在しないと思われていたフェルメールの宗教画を発見した!」と発表、世間を騒然とさせました。その後ファン・メーヘレンは贋作を描き続け、海外の富豪や美術館などにも販売し富を築きました。もちろん研究に研究を重ね、17世紀のキャンバスを使ったり、どんな鑑識にも耐えられるよう薬剤を使ったりオーブンに入れるなどして「信憑性」をあげました。

さて大転機はナチスドイツがオランダを占領した1940年に訪れます。ヒトラーが大のフェルメール好きで、何点か所有していたのを知った、ナチスの元帥ゲーリングが嫉妬し、どうしてもフェルメールを手に入れたいと探し回り、ファン・メーヘレン作の「フェルメール作品」に出会うのです。そうして、彼の作品を何点か買い入れます。ファン・メーヘレンは大金を手にし、アムステルダムに不動産を買いまくり、麻薬に溺れるようになりました。

<天国から地獄> 

戦争が終わり、オランダがナチスから解放されると、ファン・メーヘレン、今度はナチスに国宝であるフェルメールを売ったという罪で「売国奴」として逮捕されることになります。ファン・メーヘレンは「もし偽物を売っていたことを話せばこれまでのすべての偽物づくりがばれる。」しかし「偽物であることを白状しなければ、国家反逆罪として実刑が課せられる。」と悩みます。そして最終的に、「私はナチスに偽物を売り彼らを騙した」と告白。一躍売国奴から英雄に祭り上げられました。ここまでが、ファン・メーヘレンの生涯。

でも、もし、もしもですよ。ナチスが勝ちそのままオランダはドイツの占領下にあったとしたら、と想像します。
そうしたら今でもファン・メーヘレンの作品はフェルメール作だとして、ゲーリングの自宅に飾られ、死後はベルリンの美術館の壁にかけられているかもしれません。
そう、ファン・メーヘレンが口を割らない限り、ボストンの美術館にあるフェルメールもボーイマンス美術館にあるフェルメールも
誰もが本物だと信じ感心して鑑賞していることでしょう。

<フェイクニュース>

偽物でも本物だと信じていれば本物なのです。
ルイヴィトンのバッグも「並行輸入」でパリの本店で売られている値段以上で買ったとします。それがたとえナポリで作られた偽物でも買った人にとっては本物になるのです。
大英博物館に展示されている「先コロンブス期」の彫像やらメトロポリタン美術館のベラスケスも実は偽物だったという話もあります。
でもね、美しいと思い、感動すれば偽物でも本物でもどちらでもいいと私は思っています。
ソーシャルメディアが席巻する時代、「コロナは中国の研究所で作られた。」というような話も信じていれば事実。信じなければフェイクニュース。
「ああこれはフェイクだ」「これは偉い先生が言っているから事実だ」とネット上では侃々諤々と論争が行われていますが、カリカリせずに気楽に行くしかないですね、今の世の中。