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オランダのガス危機レベル1。石炭火力発電拡大に。
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ロシアのウクライナ侵攻により、オランダのガス貯蔵レベルが減り危険な状態になっている。気候変動とエネルギー担当大臣そして鉱業担当大臣は、月曜日ガス危機レベル1にあると発表した。今月からロシアはオランダに全くガスを供給していない。これは他の欧州諸国に対しても同様である。

政府は同時に石炭火力発電の再開と拡大を進めると発表。これまで二酸化炭素の発生を抑えることを目的に、石炭火力発電を止めるか減らす方針を貫いてきたが、このガス危機で石炭火力発電を受け入れざる得なくなった。

ガス不足が深刻になると政府は利用者に対して異なる対策を行う。まず大企業や工場といった大口消費をするグループ(カテゴリー1)に対し消費を控えるよう求める。続いてカテゴリー2の中小企業と発電所が来る。ガス以外の燃料に切り替えることができない家庭、ヘルスケア、中小企業はカテゴリー3に分類される。

ガス危機のレベルごとの対策

レベル1:企業や個人消費者に対し、ガスの消費を節約するよう訴える。
レベル2:オランダから供給している隣国に対し、ガス消費を減らすよう依頼する。
レベル3:オランダの企業がガス消費を減らすよう求められる。
レベル4:企業および産業に対する天然ガスへの追加課税
レベル5:業界に別の種類の燃料への切り替えを強制する
レベル6:発電所に別の燃料への切り替えを強制する
レベル7:ガスの保護されていない顧客(工業および大企業)へのガス供給を止める。
レベル8:中小企業、重要な発電によって保護されていない顧客へのガス遮断
レベル9:他のEU諸国に支援を求める
レベル10:医療機関などの連帯によって保護されている顧客のガスを遮断します
レベル11:オランダの全地域でのガスを遮断し、ガスの総輸出を停止する


ガスに関しては近い将来、政府は貯蓄にさらに焦点を合わせたいと考えている。もう1つのそして可能性は、フローニンゲンでのガス採掘を再開することだが、これは「最後の手段」として残されている。フローニンゲンのガス田は世界6番目の大きさといわれているが、採掘による地震で家が倒壊するなどの被害が続出したため採掘を中止した。


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省エネ対策で、ガス使用量過去50年で最低に
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エネルギー危機にみまわれた昨年、ガスの使用量が2021年と比較し4分の1も減少した。消費者は急騰したガス料金を目の当たりにし、ガスの使用を最低限にするよう努めた。また産業界でも一定期間生産を中止したり効率化に努めた。これにより昨年のガス使用量は310億キューブと1972年以来最低のレベルとなった。

オランダ中央統計局によれば「一部の産業では、生産を一定期間中止するなどの対策をとったり、効率化を目指すなどガスへの依存を大幅に減らした。」という。一般家庭でも、シャワー時間を短くしたり、室温を下げるなどで、一昨年と比較し4分の1もガス使用量を減らしている。もちろん暖冬もこのガス使用量の減少に加担したが、消費者が意識的に省エネ対策をとったことが大きな要因だ。
エネルギー消費量が高い温室栽培企業では、ガスエンジンを使い自家発電を行った。これらの企業ではこれまでと比較し30%もガス使用量が減っている。

昨年末のガス貯蔵量は、2021 年より 122% 増加した。これは、ガス貯蔵施設の 4 分の 3 を満たしている。ガスの消費量が減り、輸入量が増えたたことが要因だ。さらに液化ガス(LNG)の輸入量が2倍になったことも、天然ガス利用の減少に拍車をかけた。エームスハーフェンの沿岸にLNGターミナルが建設されたこともこれに貢献した。現在輸入しているガスの3分の1はこの液化天然ガスである。

ロシアからのガス供給停止で価格急騰
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月曜日朝、取引所でのガス価格が急騰した。ロシアがパイプライン「ノルド・ストリーム1」のメンテナンスのために予定より長く閉鎖すると金曜日に発表したことで、価格は一気に31%上昇した。280ユーロに近づいている価格は、1年前には30ユーロ未満だった。

このパイプラインはロシアと西欧を結ぶ重要なラインである。ロシアは追加のメンテナンス作業が必要だというが、ドイツはクレムリンが政治的取引のためこれを延期していると反論している。ノルドストリーム1は先週水曜日に3日間の予定でメンテナンスのために閉鎖されていたが、途中で問題が発生したため閉鎖は延長すると、ロシアは発表している。

このニュースは、ドイツなどを含む主要国がロシアからの石油価格に上限を設けると決定した直後にもたらされた。G7で結束した国々は、上限を設けることでロシアがウクライナでの戦争に資金が流入しないよう合意した矢先だった。

ガス価格は先週下落の傾向だった。先々週にメガワット時価格346ユーロだったものが金曜日には214ユーロにまで落ち込んでいた。

2021年の秋からガス価格は上昇を続けている。これは家計に大きな影響をもたらしており、ガスと電気の消費者価格は天井知らずとなっている。このため、低所得者だけでなく中所得者も光熱費の支払いに問題を抱えるようになった。中央計画局はこのまま光熱費が上昇し続ければ35万人が貧困ラインを下回ることになると懸念している。

北海のガス田、採掘の可能性拡大でガス不足の解決となるか
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オランダはこれまで北海やフローニンゲンでガスの採掘を行っていたが、コストや採掘による地震などで生産が減少していた。
経済気候変動省の依頼により調査を勧めていたTNO(オランダ応用化学機構)は、北海(ワッデン海)にこれまでの予想以上の天然ガスが埋蔵していると発表した。ロシアの戦争制裁によるガス価格の上昇のため、北海のガス田を閉鎖せずに長く採掘を続ける可能性が高い。新しいガス田を開発し採掘するのにはコストがかかるが、それでも長期的なガス価格の上昇を考慮すると、有利になるとTNOは見ている。このため政府は北海のガス田の採掘許可手続きを早める意向だ。欧州の深刻なガス不足がこの早急な判断の背景にある。

TNOの調査で、採掘可能な天然ガスの合計が 168 億立方メートル上方修正された。同省によると、北海のオランダ領では、合計 782 億立方メートルのガスがまだ採掘可能。
オランダはが昨年北海で生産したガスは 89 億立方メートル。家庭や企業によるオランダのガス消費量は長年にわたって 400 億立方メートルだったが、ガス価格の高騰により現在は約 300 億立方メートルまで減少している。2018年に内閣が地震問題でフローニンゲンのガス栓を閉めることを決定して以来、オランダで使用されるガスのかなりの部分が輸入に頼ってきた。

長年の間海上のガス田開発は利益が出ないため見放されていた。一立方あたり20セントという価格では採掘してもコストをカバーできず、採掘プラットフォームが売りに出されていた。しかし1立方あたり2ユーロという価格で取引されている今、北海でのガス採掘が企業にとって魅力的になってきた。

しかし環境団体は北海でのガス採掘に反対。ガス採掘により他の環境に優しいエネルギー開発に遅れをとるというのがその理由だ。また昨今のガス不足を補うものではないとコメントしている。
政府は、北海での採掘はロシアで採掘するガスよりも環境保護を重視し、フローニンゲンでの地震の心配もなく、米国から輸入されている液化ガスよりも環境に優しい、とこれに反論している。ただし、生産が順調に行くまでは4年から5年かかるという。

ロシアからのガスの供給が止まってもオランダは大丈夫!
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欧州はEUによる制裁とウクライナへの支援に対する報復として、ロシアが天然ガス供給を完全に遮断する事態を懸念している。しかしオランダのガスユニー輸送サービス社(GTS)の調査によれば、それでもオランダはガス危機に陥らないはずだという。ガス輸送を行う同社は、ロシアからの供給が止まって、しかもフローニンゲンでのガス採掘が再開されなくても、産業界にガスの供給がなくなる心配はないと、FD紙に語った。さらに、ガス不足が深刻なドイツがオランダに頼ってきたとしても、援助できると述べている。

GTS社は、ロッテルダムとエイムスハーフェン(フローニンゲン)に新たにガスターミナルを設置。これによりこれまでの2倍の液化ガスを輸入し貯蔵できるという。また政府の助成によりガス貯蔵庫は現在80%満たされている。

オランダではガス代の値上がりで需要が20%減っている。今回の予想は今年の冬の気温が平年並みであることを前提に行われたものだが、もし寒冷化が起きれば需要は予想よりも上がる。また、石炭火力発電所がフル回転し、米国などから輸入する液化ガスの貯蔵が使われることを前提にしている。

ドイツはロシアへのガス供給依存がオランダよりもずっと高い。このためロシアがガスの供給を止めると危機に陥る。今週の月曜日、ドイツの経済大臣は最悪の(悪夢)シナリオに対応できるよう準備を始めると発表している。

オランダのガス貯蔵庫、枯渇状態
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ガス料金が恐ろしいほど上がっている中、ウクライナ戦争でロシアからのガス輸入が止まるという状況で、オランダのガス貯蔵は枯渇状態にある。唯一の解決法は、運用を止めたフローニンゲンのガス採掘を再開する以外にないかもしれない。

ガス需要が高かった冬は過ぎたが、これでガス供給問題が解決したわけではない。通常地下貯蔵庫のガス充填は4月に始まり、10月からの需要増加に備える。ところが今年はこの予備貯蔵ができない状態だ。オランダには地下ガス貯蔵庫が3箇所ある。ドレンテ州のNorg, フローニンゲン州のGrijskerk そして北ホランド州のBergemeerだ。このうちNorgとGrijpskerkの貯蔵庫は国営だが、オランダの需要の3分の1を供給するBergermeerは民間企業が牛耳っている。そしてこの企業の40%はロシアの国営企業ガスプロムが所有している。その部分が昨年まったく補充されていなかったため、数十年で最大のエネルギー危機の間は役に立たなかった。

アムステルダム大学の国際経済学ワインベルヘン教授は、これはオランダの戦略的誤りによるものだと指摘している。 「当時、経済省は強制条項を追加すべきだった。つまりガスプロムにも貯蔵を維持することを義務付けるべきだった。」

このガス不足を解消するには2つの選択しかない。どちらもオランダ政府としては痛みを伴うもので極力避けたい選択である。石炭かフローニンゲンのガス採掘だ。石炭はガス発電を補うもので、約25億立方メートルの天然ガスを節約できる。(オランダでの年間使用量の約7.5%)。ただ石炭発電はCO2排出量が増加する。

そしてもうひとつの選択であるフローニンゲンのガス採掘の再開。採掘による地震と家屋への被害で、ガス採掘は中止になったばかりだ。これを再開するのは政治的な問題が伴う。しかしフローニンゲンでのガス採掘が始まれば、数10億ユーロにのぼるロシアへの支払いがなくなるという利点がある。また一時的でもヨーロッパのガス価格を安定させることが可能となる。

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